01 Jan 2008
闇に雪が舞っていた。高台になった森の中から眺めおろす湾の中の、真っ黒い海面には、異国風の大型船が2隻、昨日から帆を降ろして停泊している。浜に人影は無い。昨日まであったはずの同胞の小屋は、この船から降りてきた者達によって焼き払われていて、その暴漢どもも船に戻っているらしかった。アイヌの戦士長は、仲間にその場に潜むよう合図を送ると、沖合いの海面に目を転じた。すると、仲間たちの小船が灯すかがり火が徐々に近づいて来るところだった。やがて異国船も夜襲に気がつくだろうが、帆を降ろした船は動くこともできずに、仲間の放つ火矢にさらされるだろう。十分混乱させ、反撃が始まったら退却する。もし、うまく船に火がついてくれれば幸いだ。脱出する者がいたら森に潜む自分たちが襲い掛かる。手始めとしてはそれでいい。が、あの異国の者たちが同胞に行ったことへの報いは、これから毎晩続くのだ。
彼らの住む蝦夷の地を、和人ではない異国の者が襲ったことはこれまでにもあった。とりわけ鎌倉時代の文永・弘安の元寇の約10年前と、その直後の2回、元による激しい侵攻にさらされ、北の民は長い年月激しく抵抗を続けた。いわゆる北の元寇である。わが国の歴史ではあまり知られていない。たとえ知っていても書物の上の知識に過ぎないが、彼らの口承では、敵の攻撃のすさまじさと残虐さ、そして祖先の勇敢な戦いぶりが、いつまでも昨日のことのように語られる。戦士長が思い起こしていたのも、400年以上前の、彼らの祖先の勇猛な戦いぶりだった。
その時、異国船に動きがあった。仲間の小船が発見されたらしく、甲板に明かりが増え、鉄砲の音が聞こえたかと思うとゴロゴロと碇が上げられはじめた。が、今から帆を張って間に合うはずはない。戦士長が異国船がさらに混乱し、炎上してくれることを願いながら見つめていると、「ゴトン、ゴトン」という音を立てながら異国船の船首がゆっくりと回り始め、たちまち速度を上げ、火矢の射程外に出てしまった。夜襲は失敗した。どういう仕組みかはわからないが、異国船は帆なしで動くことができるのだ。
小船の無事を見守る戦士長たちのすぐ側に、突然矢が飛んできた。敵の一隊は船を降りたあと、まるで彼ら自身がするように、森に潜んで夜も警戒していた。しかも鉄砲を使わず、明かりなしで我々を狙い打ってくる。それは和人ではなかった。足元に見慣れない矢が次々と突き立つ中、部下たちはそれぞれ反撃を始めた。戦士長は生い茂ったクマ笹の合間に敵の姿を発見し、敵が彼自身と同じように、オオカミの精霊に守られていることを感じた。だが、それは断じて同胞の裏切り者ではない。彼ら自身に似てはいるが、はるか昔に遠い場所に分かれていった兄弟。戦士長はこの戦いが簡単には終わらないことを知った。
彼らの住む蝦夷の地を、和人ではない異国の者が襲ったことはこれまでにもあった。とりわけ鎌倉時代の文永・弘安の元寇の約10年前と、その直後の2回、元による激しい侵攻にさらされ、北の民は長い年月激しく抵抗を続けた。いわゆる北の元寇である。わが国の歴史ではあまり知られていない。たとえ知っていても書物の上の知識に過ぎないが、彼らの口承では、敵の攻撃のすさまじさと残虐さ、そして祖先の勇敢な戦いぶりが、いつまでも昨日のことのように語られる。戦士長が思い起こしていたのも、400年以上前の、彼らの祖先の勇猛な戦いぶりだった。
その時、異国船に動きがあった。仲間の小船が発見されたらしく、甲板に明かりが増え、鉄砲の音が聞こえたかと思うとゴロゴロと碇が上げられはじめた。が、今から帆を張って間に合うはずはない。戦士長が異国船がさらに混乱し、炎上してくれることを願いながら見つめていると、「ゴトン、ゴトン」という音を立てながら異国船の船首がゆっくりと回り始め、たちまち速度を上げ、火矢の射程外に出てしまった。夜襲は失敗した。どういう仕組みかはわからないが、異国船は帆なしで動くことができるのだ。
小船の無事を見守る戦士長たちのすぐ側に、突然矢が飛んできた。敵の一隊は船を降りたあと、まるで彼ら自身がするように、森に潜んで夜も警戒していた。しかも鉄砲を使わず、明かりなしで我々を狙い打ってくる。それは和人ではなかった。足元に見慣れない矢が次々と突き立つ中、部下たちはそれぞれ反撃を始めた。戦士長は生い茂ったクマ笹の合間に敵の姿を発見し、敵が彼自身と同じように、オオカミの精霊に守られていることを感じた。だが、それは断じて同胞の裏切り者ではない。彼ら自身に似てはいるが、はるか昔に遠い場所に分かれていった兄弟。戦士長はこの戦いが簡単には終わらないことを知った。