曹操の詩をもう一編。官渡の戦いで袁紹を倒した後、甥の高幹らを討伐に向かう最中の行軍を詠んだものだが、タイトルからして痛々しい。乱世の奸雄も、決して楽に生きていたわけではないようだ。

「苦寒行」

北のかた太行の山に上れば
苦しきかな何ぞ巍巍たる
羊腸のごとく坂は折れ曲り
車の輪は之が為に砕く

樹木の音は何ぞ蕭しき
北風の声はいまや悲し
熊と羆は我を見てうずくまり
虎と豹は路を挟みて啼く

渓谷に人影少なく
雪は霏々と降りしきる
頸を延ばして長く嘆息す
遠き旅は懐う所多し

我が心何ぞふさぎ鬱ぼるるや
一たび東に帰らんと思い欲うに
水深くして橋は落ち
路を半ばにしていまし徘徊す

迷い惑いてもとの路を失い
黄昏て宿り棲むところ無し
行き行きて日ましに遠く
人馬時を同じくして飢えたり

嚢を担いて行きて薪を取り
氷を割りて糜をたく
悲しきは彼の東山の詩
口ずさめば切なき思いこみあぐる